きのこま 大村裕茂さん

長良川デパートで販売している木のおもちゃ「きのこま」。

和傘の部品としても使用される“エゴノキ”という木を使い、ひとつひとつ手作りされています。

きのこまを作るのは、木工作家・大村裕茂さん。


美濃市片知、籠神(こもり)神社のすぐそば、山々に囲まれた静かで穏やかな場所に大村さんの工房があります。

今回は長良川デパートスタッフみんなで大村さんの工房にお伺いしました。

片知は初めて訪れましたが、車を降りてまず感じたことは空気が澄んでいて気持ちいい……!

長いマスク生活が続いているので、久しぶりに肺にいっぱい、きれいな空気を吸い込んだような気持ちでした。

工房にお伺いすると大村さんに案内され、まずは作業場へ。

これは長良川デパートでもお取り扱いさせていただいている、お猪口を作るところです。

木工旋盤に木をセットし、大きな彫刻刀のような道具を木に当てて削り出します。

「じゃあ、やってみましょうか!」と言う大村さん。「良いんですか!」と驚きつつも、興味津々な我々は、お猪口づくりを体験させていただきました。

大村さんに手を添えていただきながら、おおまかな形が完成。ここから更にスタッフは交代で削ります。

1つのお猪口を作る間に、大村さんは何度も何度も刃物を研いでおられました。刃物は常にキトキト(尖らせておく)にしておく必要があるそうです。

仕上げは大村さんに縁をつけていただき、なんとか完成!

スタッフ合作のお猪口ができあがりました。

写真から伝わってくると思うのですが、削るとすごい勢いで木の葛が飛び散るのでゴーグル必須です!


大村さんは奈良県香芝市のご出身。

ご実家は紙やすりの工場、そして大村さんのお母様のご実家は木材屋さんでおひつや樽を作る工場。

幼い頃からすでにものづくりが身近にあり、自分の手で何かを作ることも、職人さんの作業や道具を見ることも好きだったそうです。


そんな大村さんが木工に関わるきっかけになったのは、娘さんへの学習机作りでした。

学習机を作るために木工の教室へ通い、道具の仕込み方や使い方を習います。そして自宅にの一室に畳を1枚敷き、その上で作業を行い学習机を完成させたのだとか!そのとき作った学習机は、今でも娘さんが大切に使っているそうですよ。

その後さらに木工の道へ進んでいく大村さん。

あるとき、美濃市にある森林文化アカデミー生涯教育講座にて開催された、“手づくりスプーン講座で手づくり、市販を問わず様々な材料で作られたスプーンを20種類ほど集め、カレーを食べてみる”というワークショップに参加したところ、なんとスプーンの形や作られた素材によって味が変わることを発見!

大村さんはスプーンの形や削り出しなど、細かな部分で味が変化することに気づき、惹かれ、どんどん興味が出てきたそうです。そして仕事を早期退職し、56歳のときに森林文化アカデミー生涯教育講座に入学します。

最初は木工のワークショップなどで稼ぎ、暮らしていく予定でした、しかし、何度かワークショップを行ううちに、それはなかなか難しいことだと感じはじめていたとき、出かけた先で見つけた木製のコマ。

それがきっかけで大村さんは「木のこま」というおもちゃを作り始めます。

ちょうど、岐阜県美術館で開催される「アートまるケット」というイベントで子供のおもちゃづくりをする機会があり、そこで木のこまを作り発表。そのときのきのこまは、現在のきのこまに使われているエゴノキに似た、「リョウブ」という木でした。

それから様々な木材で木のこまを作ってみたところ、ものすごく人気が出て木のこまの注文が殺到!

そのときに木のおもちゃと、自分の好きな器をメインにやっていこうと決め、現在に至るそうです。

(リョウブは左上の木。となりはエゴノキ)

森林文化アカデミー生涯教育講座を卒業してからは、「きのこま」として起業。ときには山の木を切るお手伝いなどもしながら、暮らしておられます。

2021年3月20日〜5月16日まで長良川てしごと町家CASAのGallery CASAでも展示会を開催していただきましたが、きのこまを起業したその年から二年に一度、個展を開催してこられたそうです。

「展示や講座でお客様に作品をお持ち帰りいただけるととても嬉しい。しかし、ずっと向き合っているとどうしても苦しい場面もあり、やればやるほど目が肥えてきて、もっともっと良いものを作りたくなる。できるようになればなるほど、今まで許せたようなことも許せなくて……」と、普段は優しくて穏やかな大村さんですが、技術面に対してはとてもストイックに感じます。

大村さんが制作に求めているのは、自分の思うような形や美しさ。制作中、ときに苦しさはあるけれど、認めてもらえたとき、また個展を開催してほしいと言っていただけるときは、とても嬉しいし励みになる。そのために見合うものを作れるよう、今後も技術を磨き、努力したいと話してくださいました。

ちょっとおもしろくて、かわいい形の器やお猪口を見ると、大村さんのこだわりが伝わってきます。

「ものを作る、それができたとき安心する。体も心も喜んでいて、自分自身のエネルギーを感じる。教えることも必要だけど、自分が手を動かして作っていることが一番楽しい」と大村さんはおっしゃっていました。

今後は原点に戻り、きのこまや木のおもちゃづくりに力を入れていきたい、それもいろんな材で作ってみたいそうです。最近はお孫さんへ向けて作られた、一汁一菜セットや、おままごとセットなど、おもちゃでありつつも実際に食器として使えるものの商品化を考えておられるのだとか!

大村さんならではの木の器、おもちゃが生まれるのがますます楽しみです。


現在、長良川デパートでは木のこまだけでなく、大村さんが作った器やお猪口も販売しております。

形は似ていても、少しずつ大きさが違ったり、木目もちがうのですべて一点物です。時には珍しい材で作られた商品も入荷しています。

ぜひ店頭でじっくり見て、手にとって、お気に入りの子を見つけてくださいね。



取材番外編 〜取材はおやつとともに〜

急遽、大村さんにコーヒー豆の煎り方、淹れ方を教えていただきました。そして大村さんが作った木のカップでコーヒーをいただくという、なんという贅沢!木のお皿には娘さんが作ってくださったというマフィン。

木の器たちはひとつひとつ木目が違い、また材によって色や香りが違って、見ているだけでもとてもおもしろいのです。ほっこり、あたたかくやさしい気持ちになれる時間でもありました。

木のカップ、木の器、木のカトラリー、本棚や大きな木の机……。大村さんのおうちにある家具はほとんどが手づくり。なんと道具を入れるカバンも木!

その中でも特にランプシェードが可愛らしくて、商品化を熱望したところ、CASA Galleryで開催された展示では、さっそく商品化されておりました!(そして購入させていただきました!!)

おうちの中には見たことのない、どうやって使うかもわからない道具がたくさんあり、実際に体験もさせていただきました。写真の手前にある2つは「けずり馬」といい、乗って手動で木を削る道具だそうです。

そしてけずり馬の左側にあるのは「足踏みろくろ」。

踏み込むと木が削れる仕組みになっています。足踏みろくろで作るものは、削った風合いが残り、味わい深く感じます。

道具ひとつひとつをセットする時間も、とても楽しそうな大村さんが印象に残りました。

長良川デパート

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