郡上木履 諸橋有斗さん


岐阜の夏の風物詩といえば、「郡上踊り」。国の重要無形民俗文化財に指定されており、約420年の歴史がある踊りと歌です。

開催期間は7月下旬から9月上旬。中でもお盆の4日間は朝まで踊り明かし賑わいます。地元の人も観光客も、年齢問わず、参加者全員で踊りを楽しみます。

郡上踊りの夜は、町じゅうにカランコロンという下駄の音が響き渡ります。気持ちよく下駄を鳴らして踊るため、下駄が必需品!

郡上に履物屋さんは何軒かありますが、その中でも“郡上下駄”を専門に製作・販売をしておられる「郡上木履」の諸橋有斗さんを取材させていただきました。

お店に入ると郡上下駄がズラリ!そしてポップでかわいい色とりどりの鼻緒!さっそく、どれにしようかな〜?と悩みだす我々スタッフたち。普段、長良川デパートでは取り扱っていない下駄の鼻緒がたくさんあるので、あれもいいな、これもいいなとお店の中をじっくり見てまわります。

その間、諸橋さんは下駄をすげて(※下駄に鼻緒を取り付けること)おられました。取材へ伺った2月はオフシーズン。冬は夏に向けてひたすら下駄を作成するそうです。

郡上下駄を作る諸橋さんは、愛知県尾張旭市の出身。

諸橋さんは地元を出たいという思いがあり、沖縄へ。そして1年ほど暮らします。沖縄にいる間にものづくりを仕事にしたいと思うようになり、愛知県へ戻ってきました。

それからは自宅の一室を工房にし、アルバイトをしながら木工作品を作っていました。

しかし、それではなかなか食べていけず、仕事としてやっていく、さらに技術を身につけるために2012年に森林文化アカデミーに入学。もともと家具が好きなこともあり、当時は身近な山の木から家具を作りたいと考えていたそうです。


諸橋さんは森林文化アカデミーに入学した夏、初めて郡上へ訪れ、そこで郡上踊りを実際に体験。まずは必需品である下駄を手に入れるべく、地元の履物屋さんへ向かいます。

そしてそこで、今はもう郡上で下駄を作られていないということを知ります。(下駄の産地は大分県日田市なんだそうです)

それは大変残念で寂しいことであり、また、こうした踊りがあり、周りには山があって木があるのに、郡上で下駄を作っていないことはもったいないと感じたそうです。

諸橋さんは「郡上踊り用の下駄を郡上で作る」ということに可能性を感じ、下駄に使う木材も鼻緒も地元(郡上)にこだわって郡上下駄を作りはじめます。

諸橋さんが作る郡上下駄は、郡上産のヒノキを使用。ヒノキはスギやキリより音が軽く、良い音が出るそうです。1本板から1足を作り出すので継ぎ目がなく、とても丈夫。下駄の歯の位置は郡上踊りに合わせて、音がきれいに出る位置にしてあります。

郡上下駄を履く人が思う存分郡上踊りを楽しめるようにと、細部までこだわりが詰まっています。

下駄を切り出す作業は工房にて行われます。

最初は大まかに下駄の形に切り取ります。そのあと、歯を削り出したり、角を落としたり、ヤスリをかけたり……。いくつか工程を重ね、1足が仕上がります。1日でだいたい20足できるそうです。

森林文化アカデミーの学生時代には、郡上八幡発祥である「シルクスクリーン印刷」を体験できる、タカラギャラリーワークルームさんの前で郡上下駄を100足作って100足売る実験をし、売り切ったことも。

いろんな人に履いてもらい、踊りに合うように改良を重ね今の形になりました。そして、今も少しずつ改良を重ねているのだとか。(実は下駄の歯が以前より2mm高くなったそうです!!)


諸橋さんは2014年に森林文化アカデミーを卒業し、「郡上木履」を立ち上げます。

1年目は郡上八幡にあるカフェ「糸CAFÉ」さんにて郡上下駄を販売。郡上割り箸の下駄事業部を経て、2016年に独立し、店舗と工房を運営し始めました。

お店をオープンするにあたり、郡上八幡にある履物屋さんへご挨拶に伺い、そのときに履物屋さんの方々も「郡上踊りがあるのに、現地で下駄が作られていないことは残念」と諸橋さんと同じ思いでいたことを知ったそうです。

郡上八幡の人々は郡上踊りが地元の人たちだけのものではなく、みんなで楽しみ、みんなで盛り上げる意識がある。そのため、郡上で何かをスタートする人のことも、移住してきた人もあたたかく迎えてくれると諸橋さんは話しておられました。

こうしてお話をしてくださっている間にも、諸橋さんの手元では次から次へと下駄が出来上がります。

下駄1足をすげるのにかかる時間は約10分。

普段その間は、お客様と話し、郡上踊りとの関わり方を聞いたり、はじめて遊びに来た方へ郡上踊りのストーリーを伝えるそうです。

そしてすげ終わると、お客様がその場で下駄を履いてくださり、そのまま郡上踊りへ出かけていく姿を見送ります。その瞬間が諸橋さんにとって、やりがいを感じる瞬間だそうです。

こちらは郡上本染・渡辺染物店さんが染めてくださった鼻緒。メイドイン・郡上!な下駄。とてもかっこよく、そして美しく、惚れ惚れします。

店舗には色とりどり、様々な鼻緒がありますが、諸橋さんは1年に一度、鼻緒用に新しい生地を探しに行くのだそうです。それを聞くと、毎年郡上踊りで下駄を履き倒し、次の年の踊りに備えて新しい下駄を作りたくなりますね。(中には郡上踊りの期間に新調する方も!)
わたしの家族も郡上踊りに通っているので、プレゼントとして1足作っていただきました。家族のことを思い浮かべて似合いそうな鼻緒を選ぶ時間も楽しいです。家族お揃いで履いたり、贈り物にも良いですね。


2020年はコロナウイルスにより郡上踊りはオンラインでの開催になりました。

諸橋さんは、郡上踊りに頼っていたところがあると気がついたと言います。

今後は「郡上木履」のブランドを好きになってもらい、郡上踊りがなくとも下駄を買って楽しんでいただきたい。下駄を買ったから郡上踊りに行きたい!と思ってもらえるようになりたいと考えているそうです。

わたしは昨年、現地で郡上踊りが開催されないと聞いて、寂しくなったことを思い出しました。そして今夏も中止。安心して開催できるようになるまで、まだまだ時間がかかりそうですが、どうか来年の夏は現地で郡上踊りが開催されてほしい、という思いがより一層強くなりました。

また、せっかく郡上下駄を作ったからには、郡上踊りがない季節もおしゃれとして下駄を履き、カランコロンといい音を鳴らし歩くことを、今よりもっとお客様へ伝え、おすすめしていきたいと思います。

そして……次に郡上八幡へ行く際には、自分用の郡上下駄を手に入れたい!


長良川デパートでは常時、郡上木履さんの郡上下駄をお取り扱いしております。

また、2021年6月19日(土)〜7月11日(日)まで、長良川てしごと町家CASAのCASA Galleryにて、「郡上下駄とてぬぐい展」を開催致します。

開催初日の6月19日(土)と、7月3日(土)は諸橋さんがお越し下さり、その場で下駄をすげてくださります。(予約不要です)

普段、長良川デパートでは取り扱っていない種類の鼻緒も持ってきてくださる予定です。郡上下駄を購入したいと考えておられる方は、ぜひこの機会にいかがでしょうか。わたしもせっかくなのでこの機会に自分用を手に入れようと思います!

郡上踊り初心者だって、大丈夫!踊っている人を見ているうちに、自分も踊りたくなって、気づいたら踊れるようになっています。(勝手に体が動き始めます!)

まずは、お気に入りのMY郡上下駄を手に入れ、履いて、思い切り下駄を鳴らし、郡上踊りを楽しみましょう!



【郡上下駄とてぬぐい展】

■6月19日(土)~7月11日(日)11:00~18:00(火曜水曜定休)

■長良川てしごと町家CASA Gallery(岐阜市湊町29)

■郡上木履諸橋有斗さん在廊日:6/19(土)、7/3(土)


長良川デパート

岐阜県長良川が育んだ逸品 お土産のセレクトショップ 長良川で生まれ育った 選りすぐりの品々、あります。